CARRIER
2024.5.20
キャリアとファイナンス(資本と資産)

キャリアについて、ファイナンス(資本と資産)の観点から整理をしていた。
どうしてかというと、経験上、キャリアの悩みとして相談される方の多くは、お金の悩みを伴っていることが多数。
両者の関係性について、理解していなければ、曖昧な解像度のまま中途半端なお悩み回答になってしまう気がする。
正直なところ、社会人になりたての頃の自分は、キャリアについてあんまり深く考えていなかった。
シードの資金調達に特化したベンチャーキャピタルで起業家の経営伴走支援業務をしていた際には、入社するまで会社の業種が金融業であることを理解していなかったくらい、自身のキャリアへの関心が薄かった。
ただ、面白い会社を探していたところ、たまたま出会った会社の雰囲気が「性にあいそうだなぁ」と感じたから、直感で決めただけだった。
入社初日に、起業家の事業アイデアの壁打ちを担当することになり、初めて自分の職種を理解した。
当然、金融やスタートアップの知識もないので、最初の頃は特に苦労した。
それまで私が関わっていたベンチャー創業やベンチャー社員としての経験は、売上目標100億以内のスモールビジネスであり、売上高1兆円を目指すスタートアップとはビジネスモデルそのものがまったく違う。
企業の成長戦略も、組織づくりも、資金調達の方法もまるで別物だった。
いまでこそ、その経験がキャリアに生きてきたと、深い納得感で話すことができるからこそ、ずっと前に知っておきたかったことを、書き残しておこうと思う。
はじめに整理しておくと、ここではキャリアというものを、
「自分ができない仕事を、できるようになることで、新たな道への到達可能性の関数を引き上げていく」勝負を繰り返す歩みそのものだと捉えている。
この現象について、ここからは紐解いてみたい。
当時の業界を、私の視点で、ファイナンス観点で振り返ってみたい。
まず、VCとして起業家の事業相談が仕事になった当初、一見どう見てもできないことを、できると言い張って大金を集めるスタートアップ起業家たちに触れて、「嘘の多い業界」という印象を持った。
今では、それは私の知識不足からくる認識の誤りだったことが分かるんだけど。
そもそも投資先10社のうち1社、100社のうち1社がIPOすれば、ファイナンスとしては大成功であり、他がつぶれることはもはや当たり前の競争の世界。
そういうビジネスモデルで食べているのがVCのような業態だから。
そういう種類の経済合理性の世界では、実現したいことに対してお金を集め、うまくいかなかったとしても、出資元にお金を返す必要はない。
投資家はその前提を120%理解したうえで投資するもので。
つまり、そういうビジネスモデルが前提として資本主義社会においてお商売として許容されていて、それによって大きな利益が生まれる。
ファイナンスとしての整合性が、非常に取れているのが、スタートアップ業界だったのだ。
起業家が掲げている未来の大きさと足元の頼りなさのギャップから感じる違和感に、不可思議に見えることはあっても、彼らの行為そのものが詐欺であることとは、ぜんぜん訳が違う。
投資家が許容しているのは「挑戦してもうまくいかない可能性」であって、「前提情報が嘘でした」「インパクトも実績も、実在しませんでした」という情報改ざん、欺瞞などではないということで。
リスクの対価としてリターンを求める資本は、透明性と誠実さを最低限のルールとして、法律に則った資産運用がなされるものであり、そうでない運用は許容されない。
ここからは主題である、自身の職業(キャリア)に対して、ファイナンス性を持たせたい状況について、整理してみる。
資本主義社会のルールに従うと、そういう人は、キャリアにどこかでレバレッジをかける必要性が出てくるというのが、自然な発想だと思う。
ここでは、レバレッジをかけるということについて、今あるキャリアの資本を、スキル・人脈・仕組み・実績などを組み合わせて拡張して、次のキャリアの資本を掴むことを指したい。
つまり、キャリアという個人に紐づく人的資本の価値を拡大して、それを元手に社会資本を高めて、それらが金融資本へと接続・換金される流れを経て、資本循環が大きくなっていく歩みを最大化することを、「キャリアのレバレッジ」と呼びたい。
ここで大切なのは、職業に高いファイナンス性を持たせるということは、普通に仕事をするだけでは事足りず、仕事に金融としてのファイナンスのルールが追加で適用されることを理解しておかなければならないんだと思う。
レバレッジをかけないキャリアは、自分の時間・体力・知識を会社と価値交換することを繰り返す道になる。(ある意味、普通のことなんだけど。)
年功序列で厳密に給与テーブルが決まっている会社に勤めることは、基本的にレバレッジをかけないキャリアに該当する。
レバレッジをかけるキャリアでは、人的資本・知識などの情報・仕組みと構造の理解・人脈など他者の力を借りることで、人的資本の価値を掛け算でふくらませていく設計をする。
知り合いから聞いた話によると、米国投資銀行ゴールドマンサックスのエコノミストは、基本給と併せて、個人の運用成績によって、ベースの給与が新卒でも2000万を超えるのが普通らしい。
会社のバリューを活用して、自身が高いバリューを提供した結果に、ファイナンス性が伴いやすい職種だという印象を持った。
これはレバレッジの効いたキャリアの、ひとつの例と言えそうだ。
もしご自身が、会社員ではない場合、副業などを含む独立起業においても、基本的に同じ原則を歩むことになる。
実は、ファイナンスとしてキャリアを捉える場合、バリューを高めることにレバレッジをかける行為そのものは、先述のスタートアップ投資のような形で、人的資本の成長曲線を描くところがあるように思う。
キャリアは、個人の人的資本に投資することで、最終的には金融資本になる原資として、資産の一部に変化する性質がある。
通常の資産と同じように、各資本のリスクとリターンを設計することだって必要だろう。
めんどくさいことだけど、このあたりが厳密に分かっている人は、転職におけるポジション・給与の交渉、独立起業における領域・業界設定は勝手にうまくなる。
自身の資本・資産の感覚が厳密である人は、個人・法人における資本・資産の状況が厳密に観察できることが多い。
もし転職したくなったら、相手の会社の社内状況がクリアが見えるほど、こちらの条件を上手に通すことが可能になる。
独立・起業においては、業界において、勝てる場所がクリアに見えやすい状況にも繋がる。
資本主義社会に生きる私たちは、無意識レベルで自身の資本・資産を減らしたくない、むしろ増やしたいと、常に思っているはずで。
こういうことを知識として分かっているだけで、安心して自身の立ち位置を俯瞰できるだろう。
最後に、ちょっとした余談。
キャリアとファイナンスを結びつけて考える人の多くは、たいてい「売上」に縛られていることが多い。
会社員であれば給与、独立・起業であれば売上高。
どちらも「いくら稼いだか」という指標を注目しがちになりやすい。
とくに経験の浅い起業家は、「売上」を最優先で追いかける傾向がとても強いのだと、経営者の先輩が教えてくれたことがある。
資本や資産を生み出す流れをつくることにフォーカスし、売上はあくまでその結果にすぎないことを理解していれば、「売上」を追いかけた結果、落ちてしまいがちな穴に身動きを取られるようなことが、少なくて済む気がする。
(この辺は、もうすこし時期が来たら、記事としてまとめてみたい)
Natsumi Goto
デザイナー/アーティスト
自然や日常の中にある「感性の動き」をテーマに、アート制作やデザインコンサルティングを行う。
感性を起点に、個人やブランドの「まだ言語化されていない魅力」を引き出し、コンセプト設計や表現へと落とし込むことを得意とする。
